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探しモノ

  • ドラ
  • 2015年8月17日
  • 読了時間: 4分

 陰惨な歴史、特に戦争時代の悲しい話ほど、伝わり難いのではないか、

とよく思います。決して忘れることのできない、心に刻み付けられた光景なんでしょうけれど、思い出すたびに心が疼く。戦争体験が伝わらない訳は、伝える側のそんな心の痛みがあるからかもしれません。

 僕の住んでいる街には公園がいくつかありましてね。いずれも近隣住民の憩いの場ではありますが、利用者はその公園の隠された秘密に触れることはまずないのかもしれませんねぇ。

 その公園、昼間は子供連れのお母さん達や、ご老人の社交場でしてね。タクシードライバーの休憩所でもありまして、昼間は人で溢れてる。

 夜も防犯上、街灯が明るいので、暑い季節には夜風を涼む人も現れますね。

 その日、散歩がてら、その公園の脇を通った時の事です。ふと公園内を見ますと、男の人が居ましてね。一人ぽつん、と。下穿きがトレーニングウェアを着ているように見えました。両足がぴっちり肌に張り付いて見えましたのでね、白いトレパンを履いているんだと思いましてね。上半身は黒系のシャツかなんかを着ているのか、よく見えなかったなぁ。

 最初はその男の人、いでたちから、何事かトレーニングをしているんだと思いましてね。何の気なしに窺っていました。ところがよく見ますとね、二、三歩歩いては立ち止まり、また二、三歩歩いては立ち止まっている。どうやら地面に落としたものを探しているようでしてね。

 街灯が明るいとはいえ、流石に地面までは光が届きませんからね。コンタクトレンズを暗い中で落とした経験のある僕としましては、その男の人が少々不憫に思いました。そこで、暇な散歩途上ですからね、その方をお手伝いして差し上げようと思いましてね。公園入り口までぐるりと回り、その人に近づいて行ったんですよ。

 その人に声を掛けようか迷うくらいの距離まで近づきましたがね、その男の人、余程集中して探しているのか、顔も上げず、二、三歩歩いては地面を探して居るままでしてね。でも、何となく違和感がありまして。その人の醸し出す雰囲気、とでも言うんでしょうか、威圧感、とでも言うんでしょうか。声も掛けず、何故かその場に僕は留まりましてね。進むのをやめちゃった。

 そこで改めてその男の人を窺いますとね、背筋が凍りつきました。その男の人の黒シャツ、向こう側の街灯が透けて見えてるんです。いえ、黒シャツを着ているわけでもなかった、上半身がないんですよ!首も腕もない、腰から上がないんです!

 唖然としたのもつかの間、僕はくるりと背中を向けて、走って逃げましたね。とにかく明るいところに出たい、と。近くのコンビニに飛び込んで、タバコを買う頃は少し落ち着いてきましたが、ね。

 家に帰って早速、その公園にまつわる目撃談がないか、ネット検索してみましたよ。そうしましたら、意外なことが解りましてね。

 下半身だけの人を見た、と言う目撃談は流石に無かったのですがね、僕の見た人のヒントらしきものはヒットしましてね。

 その公園、歴史的な事実が隠されていました。その公園にまつわるサイトにはこうありましてね。

 東京大空襲の後、件の公園は遺体の一時安置所でした。埋葬先が決まり、その公園に集められたご遺体のほとんどが、区内の別の公園に埋葬されたようでしてね。

 ところが、何故か、ご遺体の三体だけが、別の公園からあぶれてしまった。そこで仕方なく、その三体のご遺体を、その場に埋葬し、目印に石碑代わりの岩を安置したそうです。

 ン十年、その公園の近くに住んでいますがね、僕はそんな事実は知らなかった。石碑代わりの岩なんて、幼少期を通して、見たこともなかったので当然かもしれませんね。

 そのサイトの設定意図には、こうありました。

 実はその石碑代わりの岩、戦後の混乱期にどうしたものか、岩だけ片付けられてしまったそうで。記録上、三体のご遺体が今もその公園に埋葬されたままなので、情報収集のために立ち上げられたサイトだったのです。つまり、今もって、その公園のどこにご遺体が埋葬されているかわからないため、弔うことができない。そこで誰かその公園のご遺体にまつわる話、埋葬場所を覚えていないか呼びかけるサイトだったのです。

 ここまでお話しますと、僕の見たあの下半身だけの人、何故現れたのか、想像つきません?石碑代わりの岩を探している、と思いますか?

 いえいえ、もっと切実な思いがあの下半身だけで探している人にあったのだろう、と僕は思うんです。僕はあの人が探しているものは、自分の上半身なのだろう、そう思うのです。

 この話、例のサイトがまともに取り合ってくれるかどうか解りませんが、あの下半身の人が現れた辺りをこれから報告してみようと思います。あの方の出現場所こそ、埋葬地なのではないか、そんな気がするのですから。

 
 
 

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