手毬:発端編(注意!障る怪談です!)
- ドラ
- 2015年9月12日
- 読了時間: 5分

こちらのお話は、今までと少し趣が違います。障る怪談でしてね。いえ、不幸になるなどではないんですがね、読後、とある少女が夢に現れるかもしれません。その時は、夢の中でその少女と遊んであげてください。
このお話をとある怪談会で話しましたら、廊下に子供の走る足音がしたこともありましたねぇ。皆驚いていましたねぇ。子供さんなどいるはずのない場所なんですが・・・。
また、実はこの話、何度も色々な所でネット上にアップしようとしましたが、何故か失敗する。今回はうまくいくかどうか。書き上げてアップしてみないとまだわかりません。うまくいくといいんですがね。
また、障るお話ですので、恐い思いをしたくないな、と思われる方がいましたら、ここで読むのをおやめになったほうが良いと思うんです。いえいえ、恐がらせるつもりはないんです。この怪談、今も”生きている”怪談でしてね。影響力を心配しております。
それでは参ります。
僕が大学生の頃のお話です。
友人のF君は長野県の上田に住んでおりましてね。僕は松本に住んでいた。
そのF君がとある日の7時頃、僕に電話を呉れました。
「丸子町で蛍祭りがあるんです。今から来ませんか?」
彼が言うには、女の子が二人来るそうでしてね。この時点では、何故僕を呼んでくれるのか判りませんでした。
午後8時過ぎに丸子町に到着しましてね。蛍祭りはすっかり終わっていました。田舎のことですからね、8時には閉場してしまうんです。その為辺りは真っ暗。片付けられた露店数店が、街灯の寂しい照明の下に照らされておりました。
辺りが暗いために、蛍鑑賞に関しては最高でしたね。妙なる光、と申しましょうか、蛍が呼吸するたびにぼんやりと青白く光る。力強く光るのは一瞬で、後は息を吐くかのように闇夜にスウッと消えていく。数瞬後、また力強く光を灯すんですね。その様子がなんともいえない叙情を掻き立てましてね。蛍を通して、生きるってなんだろう?というような哲学的な思想が浮かんできたりしましたね。
蛍の光は、綺麗、という一言では済まされない。幽玄の美しさ、とでも申しましょうか。見ているだけで心が鎮まる。二人の女の子も子供のように喜んでいました。
この時、F君が僕のそばまで来ましてね。小声でこう言うんです。
「この蛍会場直ぐそばに、心霊スポットがありましてね。あの女の子達を連れて行こうかと思うんですけど」
なるほど、F君が僕をわざわざ松本から呼んでくれた訳がここにありました。
女の子達と仲良くなりたいF君ですが、蛍祭りに連れてくるだけでは決め手がない。そこで心霊スポットを巡りをして、一気に仲良くなりたい、と考えたようです。
僕は大学生当時、毎日のように心霊スポット巡りをしていましたからね。一方で、実は恐がりなF君ですので、僕を呼び出した、というわけです。
スポット探索に断る理由はありませんので、引き受けましてね。入り口まで彼が案内してくれました。そこからは僕が先頭になり、細い道ですので一列縦に、皆を従える形で進んでいきました。
いつもは自分の車に、探索用の懐中電灯を積んでいるんですがね、僕の車はF君の家近くに置いて来てしまって、ライトなし。その場所ときたら真っ暗なんですよ。自分の爪先が見えないくらいでして。
そこで仕方なく、手探りで前を掻きながら進んでいきました。
視覚が奪われると不思議ですね、残る感覚が研ぎ澄まされるようです。手のひらに何か冷たいものを感じましてね。何かあるぞ、と思いました。何も見えない状態なのですが、脳裏に浮かんだのは墓石でしてね。そこで、この場所を僕よりも知っているF君に尋ねました。
「F君、この辺りに墓石か何かあるでしょ?」
「は、はい。確か、お墓があったような・・・。でも、スポットはもっと先です」
背後からそんな返事が返ってきました。
ところがです。墓石が脳裏に浮かんだのと同じような感じで、頭の中に割り込んできた映像がありましてね。
それは、赤い色をした服を着る、子供の姿でした。走っているかのごとく、片足を前に踏み出し、体の前後に手を開いています。その両手とも、手のひらを下に向けていましてね。江戸時代の子供、と何故かその時、思いました。
一瞬の映像なのですが、子供の姿がありありと浮かびましてね。強烈な映像が僕の頭の中に割り込んできまして、思わず立ち止まったんです。
すると、後ろからF君が心配そうに声を掛けてきました。
「先輩、な、何かありました?」
僕としては、あまりにはっきりと江戸時代の子供の姿が脳裏に浮かびましたからね、かなりショックでした。これ以上は先に行ってはいけない、という警告めいたものではなかったように思うのですがね。何となく、これは幽霊の姿の、見せ方のひとつではないか?と思いましたね。何事かは判らないものの、その江戸時代の子供は、僕にメッセージを送っている、そんな風に考えました。
そこでくるりときびすを返しました。すると、後ろに着いていたはずのF君や女の子達の姿がない。異様さを彼らも感じたようで、僕より一足先に、元来た道を帰っていました。
彼等に追いつくと、すかさずF君が、
「な、何か見ました?あ、あの辺りから先に進めそうですか?」
と、尋ねてきましたので、こう返事をしました。
「見た、というか、なんと言うか・・・。いや、先に進むのはやめておこうよ。ちょっと気になることが起こったんだ」
そう、返事を濁したのは、F君が連れてきた女の子達を、必要以上に恐がらせたくないためでした。
結局、その時点で、蛍鑑賞並びにスポット探索はお開きになりましてね。女の子達も帰っていきました。
僕の車のところまで、F君の車に同乗し、そのまま帰ろうとしますとね、F君が引き止めます。
「先輩、家で泊まっていきませんか?」
と言うんです。
彼は恐かったんでしょうね。僕が何を見たのかを聞かずに、泊まっていけと言う。そこで、僕が見たものを聞きたいのかとも思いましてね、話そうとすると、それは聞きたくない、と断固として拒む。
結局、彼には何も話さず、F君の家に一泊しました。
長い話ですので、ここまでを”発端”とさせていただきます。以降、この子供が誰だったのか?そして、僕の脳裏に割り込んできた映像が、単なる僕の想像上のものなのかどうかこの後に明かしていきますので、お楽しみ下さい。
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