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なめらすじ

  • ドラ
  • 2015年8月23日
  • 読了時間: 10分

 東京郊外も近くなりましたねぇ。都外の中核都市にも今や電車で1時間足らず。

僕は整体業を営んでおりましてね。基本的に出張は受けないのですが、恩人のたっての頼み、と言われちゃいますと断れません。

その日、恩人のNさんからお申し出がありましてね。出張のご依頼でした。ご同僚が急に体の調子を崩された、とのことでして。

心臓が急に調子悪くなったそうでして、薬を飲んでも効きが悪いとのことでした。整体の手業は時に、薬よりも即効性がありますのでね、Nさんが私を呼んで下さった訳です。

場所を聞いてみますと京浜東北線の沿線でしてね。予約の仕事を二件こなした後、急いで向かいました。

とある駅に到着しますと、NさんとともにSさんが車で迎えて下さいましてね。そのSさんが、どうにも心臓が苦しい、とのことでした。

車中、Sさんのお話をお聞きしていますと、なんとかなりそうなお話でしたので、安心しましたね。ところがそのお話、意外な方向に行きましてね。

車の目指している先は病院です。実はNさんもSさんも医療従事者でしてね。そこでお仕事をなさっているお二人なのですが、どうもその病院で仕事をしていると、体調が著しく悪くなるそうでして。

そんな前置きもあったのでしょうね。まもなく病院に到着しますと、駐車場に面した窓に視線を感じましてね。

(あらら、お仕事の最中に僕が来たもんだから、仕事の邪魔をしてしまったのかもなぁ)

と、思ったんですね。

 ところがですね、Sさん、ポケットに手を突っ込んで鍵の束を出し始めましてね。玄関を開けているんですよ。

僕はてっきり、診療中の病院を訪ねていると思っていましたので、意外でしたね。中に入ると電灯も点いていない。NさんとSさん、そして僕の三人しかいないわけです。

中に入って見て驚いたのが、その窓のある一室、ガランとしていましてね。内装工事前でした。

訳をお聞きすると、この病院、現在介護センターとして機能しているそうです。ゆくゆくはクリニックとして開院するそうで、以前は歯科と内科併設の廃病院でした。それを買い取ったようです。

駐車場に降り立った際の、元内科診療室の窓からの視線、あれは僕の思い過ごしでした。気のせい、というやつでしょうね。ですが、僕ら以外人気のないガランとした病院は、ちょっと独特でした。正直、誰も居なかったんだ、と分かると、背筋が少し寒くなりました。

ガランとした元診療室の隣にある部屋に通されましてね。その部屋で介護患者さんのデータ整理をしているそうです。言わば、管理センター室ですね。

パソコンとデスク、椅子、カルテ等の書類、それとベッドがありました。このベッドで施術できそうですね。

その管理センターである一室に入った途端のことでした。カラーンッ、と結構大きな音がしましてね、何かが落ちたんですね。

先頭のSさんが忌々しそうに呟きましてね。

「ああ、また落ちた・・・。おかしいんだよねぇ、しょっちゅう落ちる・・・」

そう言いながら床から拾い上げたのは、木のお札でしてね。霊験あらたかな某神社さんの木札でした。

 木札自体は壁にピンで留めてあるだけでしたからね、扉の開け閉めで落ちることもあるでしょう。しかし、不吉感は否めませんよ。特にご利益絶大と聞いております某社さんの木札ですからねぇ・・・。それが良く落ちる、とは・・・。

留め方や置き方が悪いのだとは思いますがね、置き方をしっかりしたところで、落ちる木札もありますのでね。障る場所に置いてある木札、紙札や、魂の篭ったお札は、何事かを報せる、と聞いておりますので・・・。ちょっとどころか、かなり気になりましたよ。

気を取り直しましてね、Sさんの施術に掛かりました。15分ほどですかね、心臓の妙な動悸は治まりましてね。左肩も痛い、とおっしゃりますので、そこもほぐしに掛かりました。

聞けばSさん、介護センターであるこの部屋で寝泊まりしているそうでして。なかなか作業が終わらない夜、ここで仕事をなさるんだとか。

Sさんの頭部、頸部をほぐしに掛かっている時でした。ベッドの端にしゃがみ込み、肩に繋がる首と頭部を緩めていますとね、やっぱり視線を感じるんですよ。

感じるだけじゃない、何度も後ろを振り返っていますとね、向き直り際に人影が見えました。勿論、二度見してもそこには居ないんですね。つまり、そこに居るはずのない人です。

一瞬ですがね、目に焼き付きました。女性です。唇が小さいのに、口紅はべったりと大きく見えるような化粧をしていましてね。いえ、口裂け女みたいな化粧ではないですよ。そこまで大きくないんです。

もう一つ特徴的なのは、ワンレングスの髪型でしてね。左側の前髪を大きく垂らしていまして。

笑っているでも泣いているでもない、無表情に、ぼんやりと立ち尽くした感じでしたね。

ところが、Sさんの方に向き直りますとね、その女性が近づいてくる気がするんですよ。僕の背中すぐ傍まで迫った感じがして、スウッと背筋が寒くなる。鳥肌が背中から腕へとぞわっと広がっていくんですね。

で、思わず振り返る。ところがね、・・・消えちゃったんですよ。姿が見えない。元々居るはずのない女性ですからね。気のせいかも、と思い直したんです。

そこで、再び落ち着いて施術にかかろうとしますとね、カッコーン、と聞き覚えのある音がしましてね。

音のした辺りを見ると、木札が落ちていまして。再び鳥肌です。

 木札を壁に戻さず、近くにあったテーブルの上に置きながら、ふと思いました。木札が落ちるのは、ある意味、お報せなのだな、と。

よくよくSさんに聞いてみますとね、その介護センターに泊まった夜中、木札はよく落ちるそうでしてね。その度に目が覚めて、睡眠不足だそうです。

木札の落ちる時間間隔は一定ではなさそうですがね。僕は、あの幻の女性が通るたびに木札が落ちているんじゃないかな、と思うんです。

施術後、にわかに顔色の良くなったSさんも、神社の木札が頻繁に落ちることを気にしてましてね。あれこれ僕に聞き出し始めました。

何故、木札が落ちるのか?体の調子が悪いのは、この介護センターに長居しているからなのか?等、Sさんご自身で恐らく解っているであろう質問ばかりでした。

僕は明言をまず避けて、他の部屋を見せて戴きました。その平屋の建物には他に2つ部屋がありましてね。ひとつは物置として使っていたらしき6畳ほどの部屋。もう一つは最も奥まった部屋でして、電設キュービクルに面して、歯科用椅子機器が二台、並んでおりました。

キュービクル可動を確かめて、これかな?と思いましたね。なにせそのキュービクルの壁を通過しての延長上、先ほど僕が施術していたSさんのベッドがあるわけですから。

ほら、よく言いますでしょう?不可思議なものはどうも、電気施設周辺に多く集まる、と。先程見た気がした女性の姿、この電設機器の裏側に出たと思うのです。

僕は携帯用のコンパスを取り出しまして、方角を見てみましてね。と言うのも、その廃病院、なめらすじがあるんじゃないか、と突然閃いたんです。

Sさんのベッド、キュービクルを一直線に繋ぐ方向を探りますとね、南西方向でした。つまり、僕の想像するなめらすじは、南西から東北に向かっています。裏鬼門から鬼門へと、この元病院建物を貫いた、見えない道があるように思われました。

そこで、僕はSさんに、唇を大きく見せた化粧をした、ワンレングスの女性の話をしてみました。お心当たりはありますか?と。

するとSさん、小首を傾げましてね。心当たりはないそうでした。この時聞いたのですが、Sさんは医療事務に携わる以前、都内某所で外国人バーを経営されていたそうでしてね。その女性スタッフにも、特徴に合った女性は居ないそうです。

そこで面白いことを教えて戴きましてね。唇を大きく見せるのは、韓国女性の化粧法だそうです。まぁ、韓国女性であったとしても、お心当たりはないそうですが・・・。

Sさんは当然、その女性のことを気になさいましてね。で、僕はこう答えました。

まず、Sさんとその女性とは、直接は関係がないのかも知れないということ。この廃病院には、目に見えない道のようなものがあるのかも知れない、ということ。その道はなめらすじと言い、神様のような存在が頻繁に通る道筋と伝えられていること。そのようななめらすじには、希に、浮遊霊のような存在が、通り抜けることがあるらしい、ということを。

「なぜ、浮遊霊のようなものが通るの?」

と聞かれましたので、ね。恐らく、本来は聖なる道筋なので、未成仏の魂が成仏を求めて通るのではないか、とお伝えしておきました。

そこまでおはなししますと、急にSさん、

「ああ、そうだった・・・。こっちの方向、すぐ傍に、神社があったよ」

と、北東を指差して仰りましてね。

 「では、こっちの南西方向に、神社や古墳、首塚などはございませんか?」

と、お尋ねしますと、それは解らないそうです。

 なめらすじは基本、神様の通り道ですからね。聖地と聖地を繋ぐと思っていますので。

なめらすじの確証(?)を得るのは地図上でもできますのでね。取り敢えず、この場所で仕事をなさるSさんに、自作の符を二枚、差し上げました。辟邪符と言いましてね、介護センターとなっているSさんの仕事部屋に結界を張って置こうと思いました。

なめらすじと思われる箇所に貼ってもらいましてね。後日、効あってか、体調不良や夜中に起きることはなくなったそうです。同時に僕が施術に呼ばれることはなくなったわけですが。まぁ、良かったな、と思います。

その病院跡を発つ前に、北東にあるという神社に参拝に伺いました。なるほど、道を挟んだすぐ向こう側に鳥居がありまして、その病院建物からは見えにくいのですが、30歩ほど歩いた箇所にありました。

帰宅して、予約のお仕事をこなしたあと、早速地図上で確認してみました。神社、病院を真っ直ぐ南西に向かって延長戦を伸ばしていきますとね、やっぱりありました。

予想していたお社はなかったのですがね、そこは観音さんをお祀りした寺院がありましてね。さらに南西方向を臨みますとね、僅か100メートルほどのところに、愛宕さま、と呼ばれる首塚があるんです。

真っ直ぐですよ?裏鬼門の南西は首塚を端に、鬼門北東の神社。その終わり近くに介護センターとなった廃病院が貫かれています。発見(?)にゾクリとしましたねぇ。

もう一つ付記すべきことがありましてね。それは、あのワンレングスの女性についてです。

僕のように毎日、ヒトの体の中の気脈を読んではいても、女性の直感というものには敵いません。その介護センターの顛末を女房に話しましてね。ワンレングスの女性について話し終わるか終わらないかの頃、

「その女の人、現代の人じゃない気がする」

と、突然言い出しましてね。

 じゃ、何時頃の人なんだろう?と尋ね返しますとね、

「多分、大正時代の人。その女の人、ワンレングスじゃなくて、顔を隠しているんんじゃないの?」

と、まるで女房が見たような口振り。

 「痣じゃなくて、火傷だと思う。顔の左側を伸ばした髪の毛で隠しているんだと思うよ」

と、言うんですよ。

 彼女の一言に驚きましたね。彼女は根拠のないことを言ったわけですが、裏づけができたんですよ。

ネット上のことですが、介護センター最寄りの例の神社の由来記が公式ホームページに載っていましてね。

その神社の本殿、大正九年に消失していまして、現在あるのは再建したものだそうです。

勿論、その情報、女房は知らなかった。ですが、時に直感で彼女は言い当てることが過去ありましたんで、改めて驚きましたよ。

大正時代と本殿の火災、火傷を隠す髪の長い女性の幻。繋がっちゃうんですよね。女房の単なる当てずっぽうとは言い切れないんじゃないかな。

その女性は顔半分を隠していますからね、右目だけを開けているとも思えます。つまりひとつ目の女性。東北地方で伝説となっているひとつ目と神職の関係をも匂わせますしね。

また、その神社さんの御祭神も宗像系の女神さんですしね。海に面した土地ではないのに、非常に興味深いですね。謎は深まるばかりです。

探し当てられるかどうかは正直解りませんが、幾つかこの事件に関して、調査続行中です。

まずは、とある平家落人伝説で繋がっているらしい観音様と神社の関係。なめらすじを繋ぐ過去の逸話が恐らくあるように思われます。

神社本殿消失とワンレングスに見えた女性との関係。なぜ、あのぬめらすじを渡り来るのか?単なる浮遊霊なのか?それともSさんに関連性のある女性の姿であったのか?いやいや、神社御祭神が宗像三姉妹と縁、ゆかりのある神職さんの影であるのか?

いずれにせよ、深い因縁話が内在していると思われるケースです。しばらく、このケースを追うつもりではありますが、現状はこんなところですねぇ。


 
 
 

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