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緑色に光って・・・

  • ドラ
  • 2015年10月2日
  • 読了時間: 8分

 幽霊が訴えかけること、って非常に解り難いんですよねぇ。何のために現れるのか?結局、後々になってみないとわからないことが多過ぎるようですねぇ。

 僕が学生時代の後輩、新井君の下宿は、まさにTHE下宿でした。

 下宿用の広い玄関を上がって一階は、大家さんの部屋と共同風呂・トイレ。玄関前の階段を上がると3部屋ありまして。その3部屋それぞれが学生さんたちの部屋です。

 そのような下宿ですので、騒ぐこと厳禁。友達を部屋に呼ぶのも厳禁。窮屈なんですね。

 新井君はそんなところに住んでいまして。1年後、学部生に上がるので引っ越してしまったのですがね。

 厳禁だらけの自室に、ある日、新井君は僕を呼びつけましてね。相談したいことがあるので、下宿に来て欲しい、というんですね。

 訳を聞いても、

「すみません・・・ここでは言えません・・・」

を繰り返すばかりでしてね。まぁ、暇でしたし、新井君のたっての頼みとあらば、先輩としては断れませんでした。

 新井君の部屋は本当に下宿らしいつくりでした。入り口はふすま。さすがに隣の学生さんたちとの間は漆喰壁で仕切られていましたが、プライベートなどないに等しいんですねぇ。

 しばらくは同じ部の話題や、オススメ定食屋の話をしていましたが、急に新井君がクソ真面目な顔になりましてね。

「・・・何か気付きませんか?」

と、一言、呟きました。

 最初は何のことかわからずキョトンとしていますとね、あとから解るんですが、僕を呼びつけた理由がそこにあったんですね。

 「いんやぁ?なんだろ?気がつくもの、って?」

と、聞き返しますとね、新井君は黙って天井を指差したんですよ。

 天井に何があったと思います?・・・お札でした。お札が貼ってあったんです。

 ありゃ、なんだ?ということになりましてね。すると、彼は怯えながらこう言うんです。

「この下宿、ヘンなものが出るんです」

 なるほど。僕は学生時代も怪談を漁っていましたので、新井君は僕を霊能者と勘違いしたんでしょう。まぁ、勘は鋭い方でしたけどね。

 ”出る”下宿に僕を連れて行けば、ヘンなもの、の正体が何がしかわかるんじゃないか、と思ったそうなんですね。

 結局、彼のいささか見当違いな思惑は外れたわけですが、代わりにこんな話をしてくれました。

 新井君の隣室に、鮫島君という学生が住んでいましてね。彼も荒井君と同じく、教養学部から専門学部に移行する折に引っ越す組なんですね。

 入学し、その鮫島君が、両親の勧めでこの下宿を決め、初めて来た時に、確信したそうです。ここは何かが棲んでいる、って。

 鮫島君はいわゆる”見える”人だったんですね。

  済みはじめて4ヶ月程は何が現れる、ということもなかった。一階で夕食を取り、自分の部屋に戻ると、時折天井から一、二度、ミシリ、という音がしていたそうですが、気がつかない振りをしている毎日。怯えて過ごしていない、といえばウソになる日常に居たんだそうです。

 その晩、鮫島君は昼間のサークル活動に疲れ果て、早めに布団に入ったんですね。するとその晩の深夜、彼はふと目が醒めた。この日に限って、天井がミシリ、ミシリ、とうるさく聞こえたんですね。

 いつもは一度、もしくは二度ほどミシリ、と鳴る天井ですが、この日は中々止まなかった。疲れもあって、眠いのに、と心の中で愚痴りつつ、起き上がろうとしたんですね。

 その時彼は、パジャマを着替えてコンビニに行こうと思ったんですね。なぜなら、依然とミシリミシリと,天井を何かが這い回る音は止まないし、このままこの下宿に居れば、見たくないものを見てしまう、そう思ったんだそうですよ。

 そこで布団から這い出そうとして、鮫島君は気が付いた。身体が動かないんです。金縛りというヤツに見舞われていましてね。

 (ああ、これは・・・見たくないのに現れちゃうんだろう。白い靄?それとも黒い人影?)

鮫島君は金縛りのたびに見てきた妖しげな靄や黒い影を想像していましてね。いわば、半ば諦めていたんですよ。ところが、彼が想像した以上のものが現れた・・・。

 天井からさがる傘付きの蛍光灯の辺りに、その、ミシリ、ミシリと足音みたいな音が聞こえていましてね。その辺りから、何か丸石のようなものが降りてくる。それが緑色に光っていましてね。周りの自分の所有物が見渡せるほど明るい緑の光に照らされていたんですね。

 天井から降りてきたその異様に明るく光る緑の丸いものは、音もなくスウッと鮫島君の胸の上数十センチで止まりましてね。

 金縛りのせいで逃げるに逃げられない。さすがの彼も慌てたそうです。何せ、緑色に光るあやかしなんて初めてでしたし、それが身動きできない彼の胸の上に留まっているわけですのでね。心臓が近いところですから、何をされるか解らない恐怖に彼は悶絶しそうになったそうですよ。

 冷や汗がどっと溢れた彼の胸の上で、その丸い緑に光るものはゆっくりと自転し始めまして。

 よく見ると、凹凸があるのに気が付いたんです。鼻のような突起と目のような窪みがあるんですね。それが段々正面を向くように回転してきましてね。

(うわぁ、か、顔だッ!こ、このままじゃ、目が合ってしまう・・・)

 今まで、天井が軋んでも気が付かない振りをして過ごしてきましたからね。目が合ってしまったら、気が付いていない振りも今後出来ませんし。なによりも、その緑に光る生首は、今まで無視し続けてきたことを怒っているんだ、と鮫島君は思いました。怒っているから、こうして生首として出てきたんだ、と彼は思ったんですね。

 緑色に光りながら、その目鼻もある生首がゆっくりと回転してきまして。そしてとうとう、一瞬ですが、彼と目が合った。

 眼窩に目玉は嵌っていなくて、黒い穴が二つ開いているだけでした。それでも彼は、緑の生首は睨んでいる、って感じたそうでしてね。悲鳴を上げたいんですが喉も痺れて動かない。逃げられないんですよ。あがくことも出来ず、びっちり金縛られている訳ですからね。

 しっかりと結ばれた緑の生首の口からは、何を話す訳でもなく。そのままゆっくりと、同じ方向に回っていきまして。耳も髪の毛もちゃんと備わっていたそうですよ。

 相変わらずゆっくりと回転し続け、再び真正面に睨み合うのは避けたいんですが、逃げられない。

(今度、睨まれたら・・・睨まれたら・・・。消えてしまえ!目の前から消えてくれ!)

緑の生首が後ろ髪を見せている間、彼は何とか金縛りから逃れようともがきました。今度睨まれたら、次こそ、彼はその生首に、行きたくないところに連れて行かれてしまう、と思ったそうでしてね。

 ところが生首は、消えるどころかそのまま回り続ける。緑色に光る頬が見え、鼻が見え、あと少しで正面を向く。

 気が付くと、朝になっていました。あの緑色した生首が再び正面を向く直前、どうやら気を失って、そのまま寝入ってしまったんですね。

 恐る恐る胸の上を見ましたが、あの恐ろしい緑色の生首は既に消えていました。

 寝床を這い出て、彼が早朝から取った行動は、日用生活品の必要最低限のものをバッグに詰め込むことでした。

 大学に行き、学生課に職員がやってくると早速、大学学生寮を申請しまして。一週間ほど、友人宅を泊まり歩き、寮が受け入れを受諾したその日に、彼は引っ越してしまったそうです。つまり、部屋の荷物を取りに来た一回のみ、彼はその下宿に立ち寄ることはなかったんですね。鮫島君の怯えようときたら、尋常じゃなかった、と新井君は話していました。

 その為、新井君も神社に行って、お札を頂いてきたんだそうです。天井から現れると聞いていましたから、そのお札を天井に貼ったんだそうです。

 新井君が学部移行で引っ越すほんの2ヶ月前の冬のことでした。

「先輩、あの緑色の生首事件、覚えています?」

と、彼から話しかけてきましてね。

 その後、天井のお札が効いたんでしょう、新井君の前にはあの禍々しい緑色の生首が現れることはなかったそうです。

 新井君が改めて僕に呼びかけたのは、彼の下宿の大家さんのことでした。

 学生で店子なため、詳しくは知らないけれど、と前置きをして、彼はこう言いました。

 大家さんのご主人が急に倒れ、亡くなってしまった事。そしてその下宿と敷地の境界争いをしていた隣家でも、人が倒れて長期入院だという事。

 それに恐らく関係していたのは、下宿の隣家が急に境のブロック塀を崩したところ、そこから無縁さんのお墓が現れて、新たな境界争いの種になっている事。

 「あの無縁さんのお墓、結局どちらの家族のものでもないそうなんです。どうやらあのお墓の主が祟って、鮫島君を追い出し、大家さんのご主人が亡くなり、隣の家でも病人が出たんじゃないか、と思うんですよね」

と新井君は言っていました。

 僕も恐いと思いつつ、

「あと2ヶ月とはいえ、大丈夫なの?そんな下宿に居続けて?」

と、心配しますとね、彼も少ししょげて、

「ええ。僕も恐いんです。ああして、原因じゃないか、って思われる無縁さんのお墓がこのタイミングで現れたんですからね」

と、言いますので、僕は少し可哀想になりました。そこで彼は自分に言い聞かすように、

「まぁ、あと2ヶ月で引っ越せますからね。大丈夫だと思います。なにせ、天井に貼った神社のお札で半年間、何も見ずに過ごせたんですからね」

と、空元気を見せてくれましたね。その時の新井君の表情が印象的であった為、今でも覚えています。

 
 
 

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