妖怪化する人々
- ドラ
- 2015年8月11日
- 読了時間: 4分

近所の商店街の外れに、とあるバーがありましてね。そこのママさん、気が強い、というか、性格的に激昂しやすいというか、とにかくコワイ人でしてね。よく言えば、類稀なる上昇志向の持ち主。ですので、非常に理想が高く且つ厳しい。女性スタッフは元より、バーに来るお客さんにまで厳しい人でしてね。営業中も、ムシの居所が悪いと、すぐに怒鳴り散らすので、コワイコワイ。
ある夜、営業が終わりましたので、残業後に僕の店を閉めていたときのことです。深夜ですからね、近くのコンビニの照明は煌々としていても、飲み屋さんもほとんどが店じまい。電車もない時間帯ですからね、とにかく人気がない時間帯でしてね。
店に鍵を掛け、振り向きざまのことでした。人の気配がした気がして、思わずゾッとしちゃいましてね。慌てて目で確かめてみたんですよ。
そうしましたら、誰も居ない商店街に、二匹の巨大な蛇が、ゾゾッ、と進んでくるのが見えましてね。人間大の、黒蛇と白蛇が並んで鎌首擡げながら、地を這ってきたように見えたんですよ。
(うわ、ヘンなのがこっちに来る!)
向き直りますとね、蛇に見えていたものが、人だとわかり、ホッとしましたね。しかし、見間違えにしては妙にリアルに見えたものだ、と、誰が寄って来たんだろうか、改めて目を凝らしますとね、近所のママさんとお店のナンバーワンホステスさんでした。
(随分と疲れちゃってるなぁ・・・。ママさんたちが蛇に見えるはずないだろう)
と、内心焦りつつも平静を装い、挨拶だけは交わしましたね。
まぁ、これだけでしたら只の疲れた上での見間違いで済んだはずなんですがね、後日面白いことがわかりました。
その深夜に挨拶を交わしたママさんとナンバーワンホステスさん。そのナンバーワンさんのお名前をルリコさんとしておきましょう。そのルリコさんが僕の店に来ましてね。世間話から始まりまして、ママさんへの愚痴や恨み言を一通り聞いた後でした。
あの夜の、商店街を鎌首擡げて這う姿がどうしても脳裏から拭えない僕としては、どうにも確かめたい気持ちが募りましてねぇ。そこでルリコさんにこう話しかけました。
「白蛇、ってさ、お金を生む、というじゃない?白蛇さんに縁があると、お金に困らない、って話、聞いたことない?」
と、切り出しました。今考えてみますと、なんともはや、藪から棒な話の振り方でしたがね、功はありましたねぇ。
すると彼女、
「あ、そうそう、思いだしたわ。あたし、前に何処へ行ったかは忘れたけど、白蛇さんを飼っているお休み所があって、そこでこんなことがあったのよ」
と、話してくれましてね。
かいつまんでルリコさんの話をまとめますとね、こんな具合になりましてね。
鎌倉の何処かへ友達数人と遊びに行ったときのこと。お休み所に入ってすぐに、ガラスの中に入れられた真っ白な蛇が居たそうでして。その白蛇、ルリコさんがお店に入ってすぐに、鎌首を擡げると、お辞儀をするように頭を下げたそうでして。
その仕草にビックリしたのはお店の人でして。どうやらご夫婦のようなお爺さんとお婆さんの店員が、
「こんなことは初めてだよ、お客さん。貴女はきっと、弁天様にお護り頂いているんだろうよ、きっと!だからお金に不自由しないはずだよ!」
と告げたそうです。
場所が鎌倉で、白蛇さんの居るお休み所があって、弁天さん、というと、銭荒い弁天さんでしょう、きっと。ですが、ルリコさんの記憶には、その銭荒い弁天さん、という社名が浮かばなかったそうですがね。
いずれにしろ、どうやらルリコさんはやはり、白蛇さんとご縁があるようですねぇ。白蛇さんのご加護ばかりか、時には白蛇さんの姿となることもあるんじゃないかな、と思いましたねぇ。そう、あの深夜、僕が見たのは単なる幻ではなかったんじゃないかな、と思ったわけです。
そうなると、もうひとつ確かめてみたいのが、ママさんの変化の姿について。ですが、ママさん、前述したようにかなり気性の激しい方ですからねぇ。白蛇さんならぬ黒蛇さんだと、どう聞いたらいいものか・・・。いきなり、黒蛇さんに見えましたよ、なんて言える訳ないし。黒蛇さんというと、白蛇さんと比べて、凄みがあるような気がしますしね。より妖怪的な感が拭えませんので。聞き方ひとつで怒鳴られちゃいますからねぇ。
ですから、未だに、ママさんと黒蛇さんとの関連は聞けないままです・・・。
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