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不幸を呼ぶ大顔

  • ドラ
  • 2015年7月31日
  • 読了時間: 7分

この話、都市伝説ぽい、というか、現代の妖怪話なのでしょうねぇ。

私が高校の時に聞いた話でしてね。ですので今から30年ほど前になりますか。

K君という、少し変わった友人がいましてね。言葉少ない男でしたが、空手と剣道の達人で、身体はかなりのマッチョ。それでいて、趣味が少女漫画を描くことでしてね。気持ちが優しい男だったと記憶しています。

気が優しかったのは多分、幼い頃から結構苦労していたんじゃないかな。彼は家庭的に複雑だったんだと思いますよ。

K君には弟がいましてね。子供部屋である晩、寝ていたときの事。

ぐっすりと寝入っていたK君が、ふと、誰かに呼ばれた気がして目を覚ましましてね。耳をそばだてると、

「兄ちゃん、兄ちゃん・・・」

と、自分を呼ぶ弟の声がする。

 いつもはやんちゃな弟なんですがね、この時ばかりは非常に切なくて、振り絞るような声だったんですね。

そこで、隣のベッドの弟の方に振り向いてみる。すると弟は、天井の一点を凝視しているんですね。

仰向けに、目を限界まで見開いて口を開け、今にも吐きそうな表情だった、と聞いております。顔といわず身体全体でひくひくしていましてね。引き攣っているんですよ。その弟の顔、火に照らされているように見えたそうでして。影が揺らめくというんですかね、火がぱちぱちと爆ぜると、陰影がちらちら動く感じです。

K君が後で気がついたことなんですがね、二人のいる子供部屋、勿論消灯していて、弟の顔など見えるはずもないんです。でも、顔どころか弟の身体全体が見えて妙に明るい。

弟にまず声をかけなきゃ、と思いつつ、妙に明るい光源を探しちゃったんですね。

光源は自分の寝ている真上。すなわち天井にありました。つまり弟が凝視している先なんですね。

天井にはね、明るい色をした雲のようなものが渦巻いて見えたそうでしてね。一見、夕焼け雲のように見えるんですが、時折火が爆ぜるかのようにぱちぱちと、子供部屋全体を明るく照らしていたんだそうですよ。

 (何だこれッ?)

K君、叫んだつもりでしたがね、声が出なかった。驚きのあまり、息を呑んじゃったんでしょうね。

 K君と弟の見ている先で、その雲、だんだん天井いっぱいに広がっていきました。オレンジ色の巨大な煎餅のようで、中心から渦が細かく淵まで広がっていましてね。それが突然、何の脈絡もなく、大きな人の顔になったそうです。

頭は禿ているのに、ぎょろりとした目の上の眉が真っ黒で濃い。口の周りにもびっしりと濃い髯。それが天井に浮かびながらゆっくりと回転してましてね。

きっ、と真一文字に結ばれた厚い唇がね、これも唐突にパカリと開いたかと思うと、

「うわっはっはっはっはっはっ」

と、物凄い大声で笑い出しましてね。

 K君、逃げなきゃ、と咄嗟に思ったそうですがね、慌て過ぎて、手足がてんでばらばら。ベッドからの起き上がり方さえ忘れたように、その場でばたばたするしかなかった。

本当に怖いと声が出ないもんですよねぇ。K君も、そして恐らく弟も、階下にいる母親を呼ぼうとはしたそうですがね。口を開けてもがくばかり。

声が出たとして、母親には届くかどうかもわからない。何せ、天井でゆっくりと回転するその大顔、耳が痺れるほどの大声で、依然、笑い続けていたんですからね。

(もうだめだ・・・。このまま弟と一緒に、どこかに連れて行かれちゃう・・・)

K君、何故かふと、そう思ったそうです。大顔に何処に連れて行かれるのかはわからないけど、少なくともこの子供部屋ではない何処かに連れて行かれる。K君、ここで覚悟しちゃったんですよ。

 ところが、ですよ。この時、階段を物凄い勢いで駆け上がる足音がしましてね。二階の子供部屋の異変に気がついた母親が、子供部屋目指して駆け込んできたんですよ。

階段で足音がした瞬間、その大顔、回転を止めて一瞬困り顔を浮かべましてね。スウッと小さく萎んでいったかと思うと、そのまま天井に吸い込まれるようにして消えちゃった。

その一瞬後、母親が部屋に飛び込んできたんです。

「何?今の大声?」

そう母親が叫んで、部屋の電気がパッと点いた。

 その時の母親の顔も恐かった。母親にも大音声の笑い声が聞こえていたらしいんですがね、何故か顔が腫れて見えた。目の周りを真っ赤にしていてね。どうやら泣いていたようでしてね。それでも凄い剣幕で、子供達にこう言ったんですよ。

「急いでリュックに下着とか着る物を詰め込んで。三人で出掛けるから」

と、有無を言わさない様子。

 大顔の話なんてできそうにない勢いだったそうで。それよりなにより、大顔が現れて恐かったこととか、母親が突然飛び込んできて、安心したこととか、一切が母親の剣幕に気圧されて、涙さえ引っ込んじゃったそうでして。

母親に追い立てられるようにして部屋を出、玄関開きますとね、タクシーが待っていましてね。どうやら、K君達が荷物をリュックに入れていたときに母親が呼んだタクシーらしい。

タクシーに乗り込みながら、K君は混乱していましてね。大顔の出た子供部屋から出て来られたのはいいけれど、何時かもわからない夜中に、タクシーで出掛けるなんて。

タクシーの後部座席、弟の向こうに座っている母親は俯いたまま何も言わないし。タクシーは何処を向かっているのかもわからない。

不安を抱いたまま、K君はいつしか眠っちゃったそうでしてね。で、目が覚めてみれば、お爺ちゃんの家だった。

K君と弟、学校を転校して、お爺ちゃんの家から通うようになりましてね。しばらくして、あの大顔が現れた時の夜のことを理解するようになりました。

あの夜、K君達の居た階下では、父親と母親が夫婦喧嘩をしておりましてね。思い余って、父親が母親の頬を手で張ったようでして。

そこで母親は父親の残る家を出て、夜中、実家に戻った、という訳でした。

いつの間にか両親は離婚。以後、少なくとも彼が高校生になる頃は、実父とは会っていないそうでしてね。

彼のお爺ちゃんの家では、しばらく、何故?何故?の毎日でした。突然お爺ちゃんの家に連れてこられたんですからね。

大顔の事は永らく忘れていたそうです。ところがある日、弟が、

「何時までも忘れられない、恐い夢、ってあるだろ?兄ちゃん?」

と。切り出してきましてね。あの日の大顔の事を思い出したんだそうですよ。

 弟は、お爺ちゃんの家に来た夜中のことは、不思議と覚えていなかったみたいですね。大顔が現れた時のことは、覚えてはいたけれど、彼にとっては夢の中の出来事と認識していたらしいんですね。

ただ、K君と弟との、大顔の出現については微妙に違っていたみたいですよ。弟が言うには、気がついたら天井いっぱいに大きな男の顔が広がっていて、彼を睨み付けながら何時までも笑っていたそうでして。円盤状で、渦を巻いた雲のようなものは、彼の記憶から欠落していたのか、それとも最初からなかったのか。

K君の弟は、あの大顔は未だに悪夢の産物と思い込んでいるようですがね。

この話を思い出したのは、怪談仲間の話からでしてね。何人かの友人から、別々の大顔を見たという体験談を聞きまして、共通項があることに気がつきました。

他の友人の話なので、ここでは詳細をお伝えできないんですがね。大きな顔が現れて、大音声で笑う、という怪談に付きまとうのは、何の因果か不幸な話。

大きな顔を見た後に、海に引き込まれそうになった、ですとかね。大顔を家で見た、と言っていた人が、火事になって亡くなってしまった、とか。他には、大顔を見た直後、自動車事故に遭ったとか。

K君の家も、しばらく離婚騒動で揉めていた訳ですからね。不幸といえば不幸なんじゃないかな。

 大顔と不幸話の関係は未だに解明できずにいます。私が集めたテストケースが10未満ですからねぇ。マダマダ集めている最中でしてね。もし、似たようなケースがあれば、教えていただきたいんですよ、ホント。

 
 
 

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