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Fトンネル

  • ドラ
  • 2015年8月9日
  • 読了時間: 8分

 数々の怪談話で、東京近郊にあるこのFトンネル。幽霊出現目撃記録や、M事件にまつわる恐怖体験もありますが、僕が体験したのは、異次元体験でしたねぇ。ここはおかしい。

 幼女誘拐殺人(M事件)で注目されたこのトンネルは、今から凡そ10年前、心霊スポットとして雑誌やテレビでちょろちょろ紹介され始めましてね。

 丁度その頃、いたこ28号さんが主催する百物語オフがありましたので、空手で出席するのもなんだし、話題を持ち帰るために我がゴーストラボが調査することにしましてね。そこでの体験記です。

 O市で軽く観光した後、地図を頼りにこのFトンネルに行き着きましてね。新トンネルの直ぐ脇にある旧Fトンネルの入り口に車を停め、辺りを窺いますとね、なんとも陰惨な雰囲気でしてね。

 隣県のH市に繋がる新Fトンネルのはずなのですが、時間帯もあってか、車の行き来が疎らです。おまけにこの旧Fトンネル、入り口付近まで両側が高い崖に阻まれており、天井はないものの、すでにトンネルが始まっているような密空間です。

 足元には積もり積もった枯葉に埋もれているひび割れたアスファルト。水気を含んでいるのでしょう、枯葉を踏みしめるたび、かさかさとした乾いた音でなく、ぐしゅぐしゅとスニーカーの裏を汚します。

 まだ2時を過ぎたばかりだというのに薄暗い。空を見上げればまだまだ明るいんですがね。また、辺りは妙にしけって居ましてね。露出している肌に、じんわりと湿っている空気がまとわりつくような、不快感もありまして。”本物”の凄み、とでも言うんでしょうか、単なる遊園地のお化け屋敷とは違うんですね。

 私、親友のG氏とにょうぼどんの三人で調査に来たわけなんですが、にょうぼどんは流石に辺りの雰囲気に呑まれてしまったのか、足が進まないんです。再三言いますが、真夜中ではないんですよ。まだ日が高い日中のことですから。それにせまッ苦しい洞穴なんかじゃなく、かつては乗用車も行き来したであろうトンネルですから。普段は割りと豪胆なにょうぼどんが尻込みした、なんて、あまりないケースでしてね。僕の方が驚いたくらい。

そこで、彼女は車の近くに待機することになりましてね。O市の商店街・駄菓子屋さんで買った水あめを練って待ってる、なんて訳のわからないことを言い出しました。

 仕方ありませんね。二人でいざ、トンネルへ。

 意気込んでいったものの、入り口でついつい立ち止まる。いえ、怖気づいたわけではありませんよ?初めて見る光景に驚いて、二人同時に立ち止まったんです。

 トンネルの中は霧に満たされていました。不思議な光景です。トンネルの中程から霧が立ち込めており、出口がよく見えないんです。

 トンネルの形状ときたら、真っ直ぐストレート。カーブも何もありません。よくよく目を凝らせば、霧の向こうにかまぼこ型の出口がかろうじて見える。

 その出口辺りに、僕は更に不可思議なものを見ましてね。向こう側の出口の左側に、人影が見えるんです。それも二つ。

 左側の人影は背が高く、ほんの少し腰を屈めていて、老人のようでした。山高帽のようなものを被っていましてね。もう一方の右側の人影は、背が低い。老人に手を繋がれていて、頭の両側が膨らんで見える。その膨らみ方は髪の毛だと思いましたね。つまり孫娘ではないかな、と。何故なら、スカートのようなものを履いているように見えたんです。

 それら人影はいずれも真っ黒なシルエット。霧がスクリーンとなり、二つの人影をよくよく黒く濃く見せていました。

 (何だ、霧に驚いたけど、人が居るんじゃないか。お爺さんと孫娘の散歩なんだろうか?)

思ったままを、傍らのG氏に告げますとね、彼の目には違って見えていたようです。

「何、言ってんの?あれが人影かよ?よく見てよ、動かないでしょ?出口辺りの左側に見えるのは?あれは道路標識じゃないかな?だって、足というか、下の方が、細すぎるでしょ?」

むう、確かに僕の目には人の形に見えたんですがね・・・。

 見解の違い?をお互いに正すべく、僕らはトンネルへと飛び込みましてね。霧の向こうの出口付近に向かって歩いて行ったんですよ。

 トンネル内、入ってみて直ぐは普通でしたね。何も変わったところがない。寒気もしないし、ここが陰惨な殺人事件の現場近くだ、という感じはしませんでしたねぇ。

 ところが、奥に進むにつれて、奇妙な感覚に陥りましてね。真っ直ぐのトンネルで、霧に阻まれてはいても、出口までの距離感が掴めない。近いようでいて、歩いても歩いても近づかない。距離が縮む間隔がないんです。

 G氏も僕も無言で歩いていくんですがね。ふと、G氏の表情を見遣りますと、彼も怪訝な顔をしてる。時々首を横に振るところを見ると、僕と同じ奇妙な感覚を感じているんでしょう。

 そして新たな恐怖が・・・。まだ霧の手前を歩いているつもりでした。前方に霧の塊がある、と思って歩いていたのですが、気がつけば、僕らの回りに霧が”発生”していきまして。あれよという間に、僕らは前後左右、頭上も足元も霧に包まれていました。

 ゾクリとして足を止める。すると傍らのG氏も同時に立ち止まる。目が合った瞬間、G氏は顔を強張らせ、

「な、何だよこれ?お、おかしいぞ!霧が急に湧いてきたッ!」

と、叫びましてね。僕はこんな現象が発生したことに、唯々呆然としていました。

 後ろを振り返っても真っ白な霧。入り口が見えないほど立ち込めています。前を見ても真っ白。出口はもう見えません。かろうじて見える足元は、ひび割れて小石の剥き出しになったアスファルト。霧の中に孤立したという恐怖が僕らを苛み始めた。

 僕は霧の中から得体の知れないものが現れるんじゃないか、と想像しかけてやめました。視界が利かない、となると、こんなにも恐ろしいものを想像してしまうものだ、と思います。

 前に進みトンネル出口を目指すか?それとも戻ってしまうか?少なからず、戸惑いました。G氏も、

「戻る?進む?」

と、かなり困惑している様子。僕らが入ってきただけで霧が発生したという異常な事態ですからねぇ。意思のあるような霧の出方、とでも言いましょうか。正直、戻るも行くも、足が進まない。

 ですが、その時こうも考えました。こんなにおかしな場所だから、この先にはきっと何かある。このタイミングを逃しちゃいけないんだ、と。ヘンな好奇心が働いちゃったわけです。

 「進もうよ。もうここまで来ちゃったんだし。さっきの標識だか人影だかを確かめないといけないし」

と、言いますと、G氏も元来、実証主義者ですからね、不承不承歩きだしました。

 霧を抜けるのに、思ったよりも時間が掛からなかった。その間、白い覆いの向こうから何か飛び出してくることを期待していたんですがね、あっという間でした。気がつけば出口は間近。僕らは少し早足になり、トンネルを抜け出しました。

 出口付近の状況といったら、入り口から入って数分しか経っていないというのに、辺りは薄暗くなっていましてね。鬱蒼とした緑と両側に競りあがる崖で、陽があまり注していない。一変しているんですよね。トンネルを背にして左に上り口がありましてね、そこがどうやらM事件でMが隠れていたという旧々Fトンネルなんですがね、流石にそこを辿る気力はなかった。

 何故かって?トンネル出口には、入り口で見た、人影も標識もなかった。お爺さんと孫娘が手を繋いだように見えた、あの影らしいものも見えなければ、それと似たような標識ですとか、ポールらしきものもないんです。

 トンネルに入る前、見えていたものは、どうやらこの世のものではなかったんですね。G氏も驚いていましたっけ。

 ここにきて、今更ですが、急にこの場に居るのが怖くなってきましてね。どうやらここは思った以上に異常な場所なのだ、と実感したんですよ。自分がこの世に居る気がしなくてね。異次元に嵌まり込んだような奇妙な感覚に捉われてしまいまして。居ても立っても居られないんです。

 そこで急に車に残したにょうぼどんが心配になりまして。直ぐにでも来た道を戻らなければ、と思い始めたんです。実際、再び霧のトンネルに戻りかけました。

 するとG氏、

「ここへ戻るの?正気かよ?迂回路があるはずだ。それを探そうよ」

と、言ってくれました。ですが、言われれば言われるほど、にょうぼどんが心配になりましてね。直ぐにでも来たトンネルを引き返し、戻らなければ、と思い込んじゃって。冷静なのはG氏で、僕はある意味取り憑かれていたんでしょうねぇ。半ば強引にトンネルを戻ってしまいました。

 不思議なことですが、帰路は早く感じられました。先程はあれほどまでに立ち込めていた霧も、目の前で消えていく。結局、帰りは一度も霧に入ることなく、気がつけばトンネル入り口付近を歩いていました。

 拍子抜けするほど呆気なく、僕らは乗ってきた車に辿り着いたのですが、傍らのG氏が酷く不機嫌でして。トンネルから抜け出てきて振り返る僕の傍らで、G氏は必死に首の後ろを手で拭い続けていました。

「く、蜘蛛の巣が・・・。首の後ろにくっついてて・・・」

と、半ば叫びながら手で払っているんですがね。彼の首の後ろを見ると、真っ赤になっているだけで、蜘蛛の巣なんか見えないんですよね。でも彼はしきりに首の後ろを拭い続けて、

「蜘蛛の巣が取れないんだよッ」

と言うんです。

 これはまずい、と正直に思いました、得体の知れないものがG氏に取り憑いているんではないか,と心配になりまして。そこで、持ってきた線香の束に火を点けて、”道切り”をして帰ろうと思いまして。

 ところが、火がなかなか点かない。風なんて大したことはないのに、こういう時に限って、火の点き具合が悪いんです。

 G氏はしきりに首の後ろを拭いながら、

「”道切り”なんていいからッ!早く車を出してくれッ!こんなとこに居られないッ!早くッ!」

と叫ぶんです。僕も慌てました。

 それでもやっとこさ、お線香の束に火が点きましてね。勢いよく煙が出てきますと、不思議なことにG氏も首の後ろを拭うのをやめてました。

 こうして、Fトンネルを後に、帰って来れたわけですがね、どうやらあのFトンネルは、あの場所自体があの世に近い場所なのかもしれません。幻の人影、トンネル内で新たな霧の発生、G氏の首の後ろの蜘蛛の巣の感触、どれを取ってみても日常では感じ得ない、奇妙な体験でしたね。まさに異次元体験。誰もが行くあの世というものがFトンネルのようなところでしたら行きたくないですねぇ・・・。

 
 
 

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